*chronicle*

見たものをわたしの言葉で綴りたい。風景描写の練習ブログです。

20151030 - past III

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きみへ

昨夜、きみの夢を見ました。きみはいつもと同じようにわたしの隣にいて、わたしが右斜め上を見上げれば、こちらを向いて優しく髪を撫でてくれて。
おでこに触れたくちびるがあまりに優しかったから、夢から覚めてしばらくその場から動けずにいました。
少し肌寒い秋の日、夢の外側にいるきみも、元気にしていますか?
 
めったに見ることのないきみの夢を見たのは、風邪を引いて寝込んでいたときでした。きっと心細かったのでしょう。きみは優しいから、私が弱っているときはいつもさりげなく甘えさせてくれて、寄り添っていてくれた。そんな甘い記憶が今回も私を元気付けてくれて、そして現実の無情さを思い知らせてくれました。
 
日常は、どれほど大切にしていても、いつか過ぎ去っていくものです。
同じ時を過ごしていれば、重ねていくことで忘れずにいられるものも、同じ時を過ごせない今は、日々風化しそうになる思い出をそっと大事に抱え続けることしかできません。
あの頃の私はそんな当たり前のことも忘れるくらい、君に夢中で、先のことなんて何も考えていませんでした。ただひたすら、楽しい日々を笑って過ごしていました。
 
ねえ、またあの頃のように笑える日が来るのかな?
 
…ごめんなさい、今のはやっぱりなしにします。
いつかまた会うことがあったら、その頃にはきっとわたしにも大切な人がいて、きみとも笑って話ができたらいいなって思います。
 
どうか、お元気で。
それでは、また。

20151022 - past II

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きみへ

 

書こうとしては手が止まってしまったり、あるいは、いざ書きたいことが見つかったかと思えば用事が詰め込まれてしまったり、なかなか思うようには書けないものですね。

きみもきっと、いつもどおり、忙しい毎日を過ごしているんだろうなと思うと、懐かしいような、少しさみしいような気持ちになります。あの頃は毎日一緒にいて、まるで子どもみたいに、昼も夜もどこまでも見境なく二人で話をしていたよね。

 

だから、今の生活に慣れきるのには、まだ時間がかかりそうです。

 

 この前、珍しく映画を観てきました。勿論ひとりで、です。主演の女優さんがとってもかわいいのと、その子が恋をしている幼馴染の男の子役を、一緒に観ていたドラマに出ていた俳優さんがやっていたので、気になっていました。(八割方後者がメインだって見抜かれましたかね…)

ちょうど、どうしようもなくさみしくて仕方がなかった時期だったのもあると思います。普段は観ないような恋愛映画(それも青春ストーリーな!)なんて観に行ったのは。ヒロインになりきって、俳優さんに恋しちゃえたらいい。そうすれば、一時的にでもきみのことを考えずにすむと思った、そんな単純で安直な理由がないといえば嘘になります。

でも、場内が暗くなって、上映前の宣伝が流れ始めて、そこで、思わず息が止まりました。

 

図書館戦争、映画またやるんだって。

 

レインツリーの国も、いよいよ公開するって。

 

きみに教えてもらった恋のお話はどれも、主人公とヒロインがわたしたちに重なる物語ばかりだったよね。ちょっとした言い合いに意地を張ってぶつかるところ、けんかになると心にもないくらいのひどいことを言ってしまうところ、なんでもないふりをして強がるくせに仲直りのタイミングばかり探してしまうところ…とても似過ぎていて、わたしが読書報告をするたびにきみは本当に楽しそうに、そして少し得意げに笑っていた。そんな素直になれる時間さえ、わたしたちはどこまでも本の中の彼らに似ていたし、きっと日本中、そんな二人は数多くいるに違いないけれど、わたしたちはどこまでもふたりきりの世界で、わたしたちだけのふたりになっていた。

 

そんな日々がなくなってしまうだなんて、思いもしなかった。

 

そんなことが一気に頭の中を駆け巡って、映画の本編が始まる前からひとりで泣きそうになりました。周りは高校生くらいの若い女の子たちばっかりだったから、冷静な大人を装うのが大変でした。

 

そんなわけで、きみを忘れ去るための作戦第一号は、細胞ひとつひとつにまで刻み込まれたきみの断片によって、見事に失敗に終わりました。どこまでもきみは私を縛りつけて離さないんだね。そのくせ、突然ひとりでどこかへ行ってしまう。本当にきみは残酷なひとです。

 

これからもっと寒くなりますね。どうかきみも、風邪などひかないように、体に気をつけて過ごしてください。

愛をこめて。それでは、また。

 

20151002 - past I

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このブログを、だいすきなきみへ贈り続けます。

私はすぐ揺らいでしまうし、きみの足を引っ張り続けることしかできないけれど、きみがすきだと言ってくれた私の文章を、せめて邪魔にならないように、何らかの形できみへ届けたいと思い、書き始めます。

 

きみにおそわったたくさんの本と、知識と、愛を、今度は私がきみに返していきたい。

そしてまたいつか、きみと手をつないで歩いていけるように。

忘れるなんて、きっと私にはできない。

miniature garden

まだ新緑の紅葉の葉陰から見上げた陽射は、既に夏のそれを思い起こさせる。灼熱のその身を晒したくて仕方がないかのように、地上のわずかな隙間にもあますことなく降り注ぐ光。そのいたみを和らげるのは、肩口を揺らす風だ。ここは標高が少しだけ高い。

目眩んだはずみでしゃがみこめば、鶏たちが、こちらを気にも留めず庭の片隅に消えていくのが視界の端に写り込んだ気がした。眇めた眸の奥で、視界が大きくゆっくりと回り出す。眩々、眩々と。

「大丈夫か」

遠くで人の声がする。高いとも低いとも、男性とも女性ともわからない、謳うような声。内耳の細胞ひとつまで染み付いて、その声が視界と共に円を描く。すべての感覚は声に支配され、今いる場所さえも瞬間わからなくなってしまう。

意識が遠のいた瞬間、振り子のように視界が突然戻った。木々の合間、鏡面のような水面が風に揺蕩うのが見える。陽炎のように薄れていく白昼夢は、差し出されたてのひらの前に跡形もなく消えた。大丈夫だ。 

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melancholy

昼過ぎには間接光だけになるこの北東の部屋は、暑い季節の昼間を過ごすには割と快適な場所だ。足元に抜ける風は熱風気味ではあるものの、西陽が差すまでの数時間、木陰のハンモックのようなこのソファで手足を思い切り伸ばして微睡む。それが、猛暑の中で唯一生きていることを実感する時間であると思っていた。

その夏が少しずつ向こう側へ行ってしまう。生きているのか死んでいるのか、そんなことすらわからなくなるほど目の前の熱に浮かされ、思考はおろか呼吸すらままならなくなるほど溺れたあの夏が。木漏れ日の隙間から見上げる陽射はまだ夏のそれだけど、空と風は、あの日から少し彩度を落としたように見える。こうして季節が肌を撫でていく感覚に目を閉じて、わたしはまた溺れるために夏を待ちわびる。

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origin

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歳を重ねるごとに、境界線が曖昧になってきた気がする。

自分のなかで確固たるものがあったはずの、想い、考え、理想。

細胞膜が融けて、中にあふれていたものが染みて、混ざり合っていく。

ひとつになることはとても気持ちがいいこと。

かつて見たその言葉は真実だ。こんなに気持ちがいいことがあるなんて知らなかった。

 

自由と、ほんの少しの孤独。

それが、今のわたしの持てるすべてだ。